先日デエビゴについてこのようなTweetがありました。
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一応大学で薬の勉強をしていた私の勝手な推測だけど、デエビゴの副作用としてよく言われる「悪夢」は本当はレム睡眠が増えて夢をたくさん見るようになることが副作用で、デエビゴを必要とするようなやつは悩みや不安が多いから夢がだいたい悪夢なだけだと思う
つまり能天気なやつが飲んでも全然大丈夫
https://x.com/poyashimiland/status/2037277030946136303?s=20
これは事実でしょうか?
デエビゴと「悪夢」の真実:レム睡眠増幅がもたらす生理的リアリティ
不眠症治療の現場で頻繁に処方されるデエビゴ(一般名:レンボレキサント)。
その優れた入眠効果の裏側で、避けて通れない話題が副作用としての「悪夢」です。
冒頭のツイートが指摘するように、「レム睡眠が増えるから夢を見る」という推測は、薬理学的なメカニズムに基づいた非常に鋭い視点です。
しかし、「能天気な人なら大丈夫」という結論については、医学的なエビデンスや臨床の現場から見ると、必ずしもそうとは言い切れない複雑な事情があります。
今回は、この「デエビゴ悪夢問題」の正体を、最新の知見から深掘りしていきます。
1. 「レム睡眠の増加」は紛れもない事実
まず、デエビゴがレム睡眠を増やすという点については、明確なファクト(事実)です。
デエビゴは脳の覚醒を司る「オレキシン」の働きをブロックするお薬です。
従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬が睡眠の質(特にレム睡眠)を抑制しがちだったのに対し、デエビゴは自然な睡眠構造に近い、あるいはレム睡眠の時間そのものを有意に増加させることが臨床試験で示されています。
- 夢のリコール(想起)の増幅: 夢を見るフェーズであるレム睡眠が長く、濃密になるため、物理的に「夢を体験するチャンス」が増えます。
- 鮮明な記憶: 脳が活発に動いている状態で夢を見るため、内容が非常にリアルでストーリー性に富んだものになり、起床時にも鮮明に覚えている確率が上がります。
2. なぜ「悪夢」として知覚されるのか?
ここで重要なのは、「夢の内容」がなぜネガティブなものになりやすいのかという点です。
確かに、心理学的な「夢の連続性仮説」によれば、日中の不安やストレスは夢の「材料」になります。
不眠に悩む方の多くが精神的な負荷を抱えている現状を考えれば、増幅された夢が「悪夢」の形をとる確率は高まると言えるでしょう。
しかし、問題はそれだけではありません。
3. 「能天気なら大丈夫」と言い切れない2つの理由
「悩みがない人(能天気な人)なら悪夢を見ない」という仮説には、見落とされている重要な視点が2つあります。
① 脳の生理的な「バグ」とパニック
夢の内容は、本人の性格や悩みだけで決まるわけではありません。
デエビゴによって脳内の化学バランス(オレキシン系)が急激に変化する際、脳は一時的に不安定な状態になります。
この時、不安や恐怖を司る脳の部位である「扁桃体(へんとうたい)」が過剰に反応してしまうことがあります。
たとえ本人の心が穏やかであっても、脳という「臓器」が生理的なエラーを起こせば、脈絡のない恐怖イメージやパニックに近い感覚が生成され、それが「悪夢」として体験されるのです。
② 潜在意識の「掘り起こし」
人間は、自覚している「悩み」だけでなく、普段は意識していない潜在的な記憶や小さな違和感を膨大に抱えています。
デエビゴによる強力なレム睡眠の増幅は、普段なら意識の底に沈んでいるはずの断片を無理やり引きずり出し、それを鮮明なストーリーに合成してしまうことがあります。
自称「能天気」な人であっても、脳の深い部分にある材料が「悪夢」として編集される可能性は誰にでもあるのです。
4. 社会的な配慮と、副作用への向き合い方
「悩んでいるから悪夢を見るのだ」という解釈は、一見論理的に見えますが、実は非常に危険な側面を持っています。
もし「能天気なら大丈夫」という論理が一般化してしまうと、副作用で苦しんでいる人に対して、「悪夢を見るのは、お前の性格やメンタルに問題があるからだ」という無言の圧力をかけることになりかねません。
実際にデエビゴによる悪夢を経験した方々は、本人の意志や心構えではどうしようもない「抗いがたい生理的な恐怖」に直面しています。
これを「本人の悩み」に帰結させてしまうのは、副作用という身体的な苦痛を精神的な問題にすり替える、不適切な決めつけであると言わざるを得ません。
5. まとめ:正しく恐れ、正しく理解する
デエビゴによる悪夢の正体は、以下の3つの要素が複雑に絡み合った結果です。
- 【薬理】 レム睡眠を増やすという、薬本来の強力な作用。
- 【生理】 脳の化学バランスの変化に伴う、扁桃体などの過剰反応(体質)。
- 【心理】 日中のストレスや潜在意識にある記憶の断片。
「レム睡眠が増えるから夢が増える」という推測は正しいですが、「能天気なら大丈夫」というのは、個人の体質や脳の生理現象を無視した、少し乱暴な結論と言えます。
デエビゴは非常に優れた薬ですが、副作用の出方は人それぞれです。
もし悪夢が辛い場合は、「自分のメンタルが弱いせいだ」と自分を責めるのではなく、あくまで「薬による脳の生理的な反応」として捉え、早めに主治医に相談することをお勧めします。